こんばんは。 地方僧侶のかっけいです。
平成30年6月15日より民泊に関する新たな法律が施行されます。その名も『住宅宿泊事業法』です。
民泊に関係する法律として従来からある『旅館業法』と、平成25年に施行された『国家戦略特区法(特区民泊)』があったのですが、今回の法律ではより民泊の範囲が広がり、以前よりも観光客等を宿泊させやすくなります。
お寺によっては修行体験・仏教体験と称して、寺にそのまま宿泊してもらうというのは以前からありました。
規模の大きなお寺では宿坊(しゅくぼう)と呼ばれる宿泊施設を構えていることもあります。
しかし地方の一般寺院では宿坊を構えていることは少なく、それこそ寺院ごとの曖昧な判断(届け出をせずに)で宿泊をさせていたケースもあるでしょう。(無料で宿泊させる場合は問題ないよ)
今回の民泊新法によってお寺はもっと気軽に宿泊できる場所になるのだろうか。宿泊する需要は増えるのだろうか。
そんなことを書いていきます。
今までの民泊制度と新しい民泊制度は何が違うのか?
観光庁は民泊制度について詳しく説明しているサイトを開いています。→『minpaku 民泊制度ポータルサイト』http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/
そのサイトを見れば民泊に関する情報がほぼすべて手に入るのですが、すこしだけ要点を抑えておきます。
従来の民泊制度『旅館業法』では厚生労働省の許可が必要であり、住専地域では宿泊営業の許可は下りませんでした。
つい最近の平成25年の『国家戦略特区法(特区民泊)』制度では住専地域でも宿泊できるようになったのですが、一方で2泊3日以上の宿泊など一般住宅を宿泊場所として提供することにはやや難がありました。
そして今回新たに『住宅宿泊事業法』ができました。
これは宿泊場所としての許可も認可もいらず、都道府県知事に「届出」を行うことによって民泊することができます。
旅館業法 | 特区民泊 | 住宅宿泊事業法 | |
許可認可等 | 許可 | 認定 | 届出 |
住専地域での営業 | 不可 | 可能 | 可能 |
営業日数 | 制限なし | 2泊3日以上 | 年間180日以内 |
これら以外にも細かな違いは多々ありますが、詳しくは観光庁の民泊制度ポータルサイトを見てください。分かりやすいです。
新しい法律により以前よりも気軽に観光客を泊めることができるようになったのですが、一方でただ届出するだけではダメで、きちんと住宅としての要件を満たしていなければそもそも駄目です。
極端なことを言えば、コンテナを改装してコンテナハウスとして提供するのは難しいです。住宅としての台所・浴室・便所・洗面設備といった水回りの設備要件が必要だからです。
宿坊の無かった寺も観光客を気軽に宿泊できるようになるのか。
寺によっては宿泊料を徴収して泊まる宿坊というのがあります。料金が修行体験・座禅体験などのツアーにすでに含まれていることもあります。
しかし多くの一般の寺院では宿坊を構えていることは少なく、地方寺院では寺の本堂や庫裏(僧侶の住宅)の座敷にて布団を敷き、寝泊まりしてもらうケースがほとんどです。
宿泊料を取らなければ(有料ではなく無料であれば)、厚生労働省の許可認定を受ける必要はないのですが、地方寺院は寺院運営に困窮しているので宿泊料とは別の名目で料金を頂いていることもあるでしょう。要はグレーなところで泊めていたことになります。
さて今回の民泊新法はお寺にとって有難い面もあれば、少し厳しいところもあります。
有難い点は営業日数が180日以内であること。
観光寺院でもない限り地方寺院は、お参りの人が頻繁に訪れることはありません。お寺の中に墓地があれば墓参りに来る程度でしょうか。
しかしいくらお参りが少ないお寺であっても、年間に3・4回の大きな法要行事はありますし、土日祝日にはお寺で仏事があることもあります。寺によっては葬儀をしていることもあるでしょう。
そのため常に宿泊者を募るわけではなく、寺院の暇な時期・トラブルが起きにくい時期を選んで宿泊営業をすることができます。
そのため年間180日間の営業日数は余裕があるすぎるという印象すら受けます。
一方で、住宅としての要件を満たすことができるのかという問題もある。
上で簡単に説明したように民泊新法は非常に簡単に民泊を始められます。
ただし住宅としての要件を満たすことが条件の一つです。
するとお寺で宿泊する場合、「住宅としての台所・浴室・便所・洗面設備」といった水回りの設備要件を満たすのは難しいことがあるのではないだろうか。
トイレや洗面場所は寺院にも当然あるのですが、宿泊客に対して台所と浴室を提供できるかと言えば怪しいです。
現に無料で本堂や座敷で宿泊してもらっている寺院も台所と浴室は提供していないケースがほとんどでしょう。
もしもそんな設備要件を満たしているのであれば、最初から宿坊として運営するのではないだろうか。
また懸念材料として地域と門信徒の理解も必要。
そしてもう一点の注意事項としてお寺は僧侶だけの所有物ではないということです。
もちろん宗教施設、宗教法人としての代表者は寺の住職です。
しかし寺は地域との繋がり・支えがあって成り立ちますし、また檀信徒の信仰の場・聞法の場でもあります。
地域住民や寺に参る人が不信感を覚えるような寺院運営は寺のあり方として如何なものだろうか。
もしも民泊(宿泊場所)として寺院に観光客を宿泊させるのであれば、総代世話人会を開き納得を頂き、地域住民や檀信徒に説明会を開き理解を得る必要があるだろう。
お寺の護持運営が寺の僧侶・住職に任されているからと言って、好き勝手にしていいわけではなく、どなたでも気軽にお参りできる空間を維持するのも寺を預かる僧侶の務めではないだろうか。
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さいごに。寺に泊まる需要供給は増えるのか。
寺に宿泊したい観光客とは主な目的として仏教体験(宗教体験)をしてみたいということが挙げられます。
実際、外国人の多くはZEN(禅)をイメージするようですし、仏教のことをYoga(ヨガ)と勘違いしているようです。
すると修行をする宗派であれば外国人観光客の需要には答えられるのですが、一方で浄土系の宗派では禅や護摩行などは行わないので、需要にこたえられないかもしれません。
また全国には7万以上の宗教施設としての寺院があります。
わざわざ地方の寺に民泊してくれるかもしれないというのは虫が良すぎる期待であり、実際には宣伝力・口コミのある寺院や、格安の宿泊料金、奇をてらう活動をしている寺だけが宿泊されるのではないだろうか。
ともあれ需要が増えるかどうかは未知数なところがあるが、まずは届出をし募集をしなければ寺院を民泊として提供することはできない。
寺院運営の新たな活路として民泊を初めるお寺は増え、ひょっとしたら供給過多になるかもしれない。しかしもしも寺に泊まりたいという需要があった場合、手を打っておらず断るような形になってはそれはそれで問題に感じます。
ただ地域や門信徒の理解協力を仰ぐことも決して忘れてはいけない点であります。