こんばんは。 僧侶のかっけいです。
戦後から昭和の終わりまで、年間の死亡者数はおよそ70万人~80万人程度でした。ほぼ横ばいです。
しかし平成の時代に入り、毎年のように死亡者数が増えています。
1990年(平成2年)に戦後初めて死亡数が80万を突破し、1995年(平成7年)には92万人、2003年(平成15年)には101万人、2007年(平成19年)には110万人、そして2017年(平成29年)には134万人になりました。
わずか30年も満たない間に、年間の死亡者数は50万人以上も増加しています。
そしてこの上昇はいつまで続くのかというと、「国立社会保障・人口問題研究所 『日本の将来推計人口』」の推測では2040年(平成52年)まで続き、死亡者数は162万人になると予想しています。
では葬儀や法事などを執り行っている僧侶から見ると、この死亡者数の増加はどのように感じているのか。
そのことを今回書いていきます。(ただし、私の感想であり、お坊さん全ての認識ではないことをはじめに申しておきます)
葬儀が増えるとお坊さんは嬉しい?
お坊さんはどのようにしてお金を得て生活しているでしょうか。
知っていますか。
自坊のお寺から給料を頂いて生活をしているのです。
決して皆様のお布施がお坊さんのお金になっているわけではありません。
お布施は仏様にお供えをし、仏様をおまつりしているお寺に納めているのです。ですのでこのお布施のお金とは、お坊さんのお金になるのではなく、宗教法人であるお寺のお金になるのです。
お坊さんは宗教法人を有するお寺に属している人なので、この法人から決められた給料が発生します。
ですので「葬儀が増えたら、お坊さんはお給料が増えて生活が潤って、贅沢ができるんじゃないの?」とイメージするのは間違いです。
葬儀が増えようと、お坊さんは嬉しいとは感じません。
ただ一点だけ注意事項があります。
それはお寺(宗教法人)のお金が、お布施の大小によって、変化していくことです。
つまりはお布施を納めてくださればお寺は護持運営する費用が得られ、一方でお布施が少なくなればやがては寺院が消滅するということです。
なぜ死亡者数は増加しているのか。
現在日本は「多死社会」と表現されています。
高齢化が当たり前になった一方で、今まで経験のないレベルで死亡者数、そして葬儀数が増加しているのです。
これは戦後まもなくの頃に生まれた人たちがちょうど、70歳以降の高齢の世代に入ったことが関係します。
1947~1949年(昭和22~昭和24年)は第一次ベビーブームと言われ、毎年250万人以上の子供が誕生しました。
この1945年頃以前に生まれた子供たちが、現在高齢者となりつつあり、年々死亡者数が増加しているのです。
そして平均寿命である90歳程度、2040年頃までは死亡者数は増えると予想されているのです。
逆に言えば、この2040年のピークを過ぎ去れば後は死亡数は減少の一途となるということです。
死亡者が増えると葬儀は増える?
結論から言うと、増えます。
しかし本当に増えているのかと言えば、微妙な所です。
例えば葬儀業界のとあるデータですが、平成14年の年間葬儀取扱件数はおよそ63万となっています。そして平成17年はおよそ71万人です。
年間の死亡者数の6割・7割程度しか葬儀をしていないということになります。
おかしいですよね。後の30万人はどこに行ったのでしょうか。
単に調査方法からは漏れた数値なのでしょうか。
日本の葬祭業は高齢化を背景に葬式の数は増えていくと推測されています。
一方で、家族葬や個人葬、直葬など今までになかった、新しい葬儀の形、命や故人を敬う偲ぶ機会・ 気持ちが希薄化しているとも言えます。
人は亡くなると、火葬しなくてはなりません。ですので、火葬という葬儀の中の一儀式は確かに増えていきます。
しかし一方で、葬儀をしたかどうか、弔ったかどうかよくわからないような葬儀の形が増えていくともいえるでしょう。
お坊さんから見ると、将来の葬儀の増加・減少はどのように感じるか。
現在様々な業界から葬祭業界に参入しています。
しばらくの間は死亡者が増えるからですね。
一方で、現在では地域のつながりだけでなく、家族・親、先祖といった縦のつながりすら希薄になっています。
「後の者には迷惑かけたくない・負担をかけたくない」
言葉は綺麗で、響き良くきこえるのでしょうが、この言葉は裏を返せば、「今までの人たちは迷惑だった。邪魔だった」という自分勝手な気持ちを告白しているだけではないだろうか。自分が様々な人たちや命に育てられてきたご恩を忘れているのではないだろうか。
どんな人であっても人生に一度は大説法をするといいます。
それは自分の死んでいく姿を後の人たちに見せていくということです。
私は何も葬儀にお金をかけて豪華にしてくださいと言っているのではありません。
たとえ簡素な葬儀であったとしても、有縁の人に声を掛け賑々しく故人を偲び、弔いの場を設けてほしいと感じているのです。
現在では孤独死・独居死が都会を中心に話題になっています。しかし田舎の方でも非常に似たような状況です。
葬儀の増加減少は世の中の安定や医学の進歩などにより至極当然の流れです。これについては私が言うことはありません。
たとえ葬儀が増えようが減っていこうが、故人を偲ぶという場を用意して、今の自分がどのような願いの中で育てられてきたのかに気が付き、後の人たちに何を残していけるのか、その場が残っていければ何よりです。お坊さん的に言えば、いのちに気が付くご縁を頂いてほしいです。
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さいごに。葬儀が減るとお坊さんはどうなる。
冒頭の方で、葬儀が増えてもお坊さんの給料が増えるとは限らないということを書きました。
じゃあ葬儀が減りお布施が減るとどうなるだろうか。
ひょっとすると法人からの給料が減り生活が困窮するやもしれません。
しかしそれ以上にお寺の護持運営が難しくなり、やがてはお寺が消滅する廃寺になるやもしれません。
葬儀が増えるとお布施額が増えると思うでしょうが、いいえ減少しています。
ではこの流れが今後続くとお布施の金額が減っているのに葬儀が減少するので、間違いなくお寺は維持ができなくなります。
これまたとある話ですが、死亡数のピークが過ぎた20年30年ののち、寺院の年間葬儀数は門徒数(檀家数)の3%になるとも言われています。つまり門徒数が100なら3件程度、200なら6程度ということです。
ただでさえ祥月命日や年忌法要などが減少し、維持できない寺が増えている現在。葬儀が増えている今しばらくは仮の危うさの中でなんとか守っている信仰の場であっても、20年・30年後には僧侶のいない廃れた寺だらけになるのではないかと想像します。