僧侶のかっけいです。
先日私はお経を単調に読む理由として、お経文(きょうもん)は偈文(げもん)と違うからということを書きました。
すると後日、「経文の中には、偈文がありますよね」という質問がありました。
はい。確かに偈文が入っているお経文もあります。
今回は経文と偈文の違いについて、もう一度詳しく紹介します。ただし注意点として、私は浄土真宗のお坊さんであり、仏教宗派によって微妙に言葉の意味が違うかもしれません。
経文の意味・偈文の意味
- 経文(きょうもん)は、仏教の経典のこと。
- 偈文(げもん)は、偈(げ)の文章のこと。
偈とは、韻文(いんぶん)の形を持つ、詩歌・詩句のことです。サンスクリットのqāthāを音写した「偈陀・伽陀」を略したものです。
韻文とは一定の文字のリズムや音のリズムがある文章のことです。日本だと、7・5の文字数の俳句や和歌がそれにあたりますね。
無量寿経の中の偈文
例として、浄土真宗の経文「仏説無量寿経」の冒頭を紹介します。
我聞如是・一時佛住・王舎城・耆闍崛山中・與大比丘衆・万二千人倶・一切大聖・神通已達・其名曰・尊者了本際・尊者正願
仏説無量寿経
どうでしょうか。
区切りの文字数がバラバラでしょう。
続けて無量寿経の中の偈文を、いくつか挙げます。
光顏巍巍・威神無極・如是焰明・無與等者・日月摩尼・珠光焰耀・皆悉隱蔽・猶若聚墨・如来容顏・超世無倫・正覚大音・響流十方
讃仏偈
讃仏偈は、法蔵菩薩が世自在王仏の徳を讃え、自らも仏になる決意を述べた偈文です。
我建超世願・必至無上道・斯願不滿足・誓不成正覚・我於無量劫・不爲大施主・普濟諸貧苦・誓不成正覚・我至成仏道
重誓偈(三誓偈)
重誓偈は、すべての人々を救う48の願い建てた阿弥陀仏が、再度重ねてその願いを3つの誓いにまとめた讃偈です。
讃仏偈は4文字ごとの塊で、重誓偈は5文字ごとの塊で、調子を規則正しく繰り返しています。
このようにお経文の中には、規則正しい調子の偈文が含まれていることもあります。
声明は仏徳讃嘆の音楽
仏教音楽には声明(しょうみょう)があります。
法事や葬儀とかで、お坊さんが独特な節回しでお勤めしているのを聞いたことががあるんじゃないかな。
でもお経全体に対して、声明があるわけでありません。
上で説明したように、一定の文字のリズムや音のリズムがある文章で、また仏徳を讃嘆する部分で声明が使われるのです。それが偈文です。
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後世につくられた偈文もある
偈文は韻文の形があります。それは経典の中からだけではありません。
和歌や俳句が韻文の形式であるように、後世のお坊さんが、韻文の形で仏徳を讃嘆している詩句は偈文とされ、節がつけられリズムよく読経されます。
例えば浄土真宗では、宗祖親鸞聖人が書かれた「正信偈(しょうしんげ)」が有名ですね。
元々は親鸞聖人がまとめられた「教行信証」の行巻最後に、無量寿経の教えや高僧らの徳を讃嘆したものです。本願寺の蓮如のときに、門信徒らの朝夕のお勤めになっていきました。
帰命無量寿如来・南無不可思議光・法蔵菩薩因位時・在世自在王仏所・覩見諸仏浄土因・国土人天之善悪・建立無上殊勝願
正信偈
正信偈は1句7文字の塊で、120句の詩歌となっています。
偈文がお経文とは違うことが分かりましたか?
- 経文は、金言・説法
- 偈文は、仏徳の讃嘆
経文は仏さまの教えの内容が説かれた文章で、偈文は一定の決まりがある韻文で作られた仏徳を讃嘆した文章です。
私たちがリズムを付けて歌うように読んでいるのは、偈文の方ですよ。
お経文は仏さまの金言であり仏さまからの説法ですので、たんたんと読むのがよろしいのです。