僧侶のかっけいです。
お寺には多くの鳴り物があります。
参拝者がまず目にする大きな鐘は、「梵鐘(ぼんしょう)」と言います。お堂の横にある小さな釣鐘は「喚鐘(かんしょう)」、または「行事鐘(ぎょうじしょう)」といいます。
その他にも鏧(きん)や鈴(りん)や磬(けい)など非常にたくさん種類があります。
鳴り物の音を出すためには、叩く道具・突く道具が必要になります。
今回の話は、鐘つき棒の名称についてです。
「撞木」の表記が有名ですが、「橦木」や「鐘木」もあります。これらの違いはなんだろうか。私の考えも混じえながら書いていきます。
撞木・橦木・鐘木の読み方
これら3種類はすべて「しゅもく」と読みます。
現代では使わなくなりましたが、「しもく」と読むことも可能です。伝わるかは微妙ですが。
鎌倉~室町時代頃までは、「しゅもく」と「しもく」の両方とも使われていたようです。
なお余談ですが、それぞれの漢字が使われた地名があります。
- 京都府京都市伏見区撞木町(シュモク)
- 愛知県名古屋市東区橦木町(シュモク)
- 新潟県新潟市中央区鐘木(シュモク)
それぞれの意味の違い
広辞苑などによると、『仏具のひとつ、鐘・鉦 (たたきがね)・磬 を打ち鳴らすT字形の棒。また釣鐘を突く棒。かねたたき。』の意味があります。
漢字表記はちがえど、意味は同じようです。
続けて、撞・橦・鐘の意味も調べてみます。
- 撞(しゅ):つき鳴らす。鐘を鳴らす。主に丁字の形をした棒。
- 橦(しゅ):まっすぐな棒。 突く。突き破る。かねをつく棒。
- 鐘(かね):吊るして打ち鳴らすために金属で作った器具の総称。
踏まえてそれぞれの意味を分けると、次のようになるでしょう。
- 撞木:丁字の形をした鐘つき棒
- 橦木:真っすぐな形の鐘つき棒
- 鐘木:釣鐘を打ち鳴らすための棒
なお、丁字形のものを「撞木形」とも言います。
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梵鐘の撞木は橦木の方が正しそう
鐘をつくための棒は「撞木」と表記されることが多いです。しかし私個人の考えですが、梵鐘の場合は「橦木」の方が適しているように感じます。
上の写真の鐘つき棒は「撞木」でいいと思います。なぜなら丁字(T字)の形をしているからです。
この鐘つき棒は梵鐘と比べて小さな釣鐘(喚鐘)を打ち鳴らすために使います。丁字の部分を握り、鳴らします。
一方で、梵鐘のような巨大な釣鐘はどうでしょうか。まっすぐな木の棒を屋根から吊り下げ、勢いをつけるために引き綱を垂らしています。
まっすぐな形の鐘つき棒なので、私は「橦木」の表記が正しいように思います。
シュモクは古くはシウモク・シモクとも呼ばれ、杵木とも書かれていました。杵といえば餅つきの丁字をイメージしますが、仏具の金剛杵のように真っすぐした形もあります。
杵には、煩悩を砕く菩提心の象徴の意味があり、鐘を鳴らす道具にぴったりの漢字だったのでしょう。
しかし時代がたつにつれて文字にも流行り廃りがあったのかもしれません。
仏具の鐘を鳴らす道具に、鐘木や杵木があり、それが撞木や橦木に変化してきた。
ひょっとすると、撞木は手で鐘を鳴らすイメージとしてピッタリだと定着し、橦には突き破るの意味があるので避けられるようになったのかもしれません。
いずれにせよ、現代ではお寺の釣鐘を鳴らす道具は、撞木と手偏の字で表記するのが主流です。