僧侶のかっけいです。
私の住んでいる香川県の名産品として「さぬき市志度の桐下駄」があります。下駄とは木の板に「歯」と呼ばれる接地用の出っ張りのある履き物です。
お坊さんって「下駄」を日常的に履いていると思いますか?
いいえ、私は30年近く生きていますが、実は一度も法衣と一緒に下駄を履いたことはありません。
『お坊さんと下駄について』書いていきます。
昔は下駄を履く人がそれなりにいた
下駄を日常的に使用しているお坊さんは非常に少ないです。
一部の宗派では本山や修行道場では下駄を履くそうですが、それは非日常の空間であり、一般の人も下駄を履くお坊さんを目にすることは少ないでしょう。
しかし私の父である住職に聞きますと、昔は下駄を履いて出かけるお坊さんもそれなりにいたそうです。しかしさらに話を聞きますと、一般の人もごく普通に下駄をはいていたそうで、お坊さんだから下駄を履くのではなく、下駄という履き物がありふれたものだから使用していたそうです。
実際、戦前戦中の写真を見ますと、小さな子供からお年寄りまで色んな世代の人が下駄をはいていたことが見てとれます。明治時代以降、下駄は庶民的な履物となっているそうです。
下駄と草履の違い。お坊さんは草履でお参りに行く
平成の今の時代、下駄を履くお坊さんは非常に少ないです。
今のお坊さんは草履(ぞうり)や雪駄(せった)を履いてお参りに行きます。草履と雪駄については以前紹介しました『雨の日に僧侶の履物は何を履く?』(上の写真は、草履と雪駄です)
明治大正の時代は、下駄が非常に人気の履物だったそうです。それは下駄ならではの利点があったからです。
下駄は道路が十分に舗装されていない時代には、雨が降った後、道路がぬかるんだりと足元が不安定だったそうです。草履ではぬかるみを移動するのに不便ですが、高さがあり接地面が少ない下駄はぬかるみに埋まりにくく、さらには泥水の跳ね上げも抑えられるため、着物が汚れにくいメリットがありました。
そのため当時の生活スタイルに適していたため、下駄は人気の履物だったそうです。お坊さんもよく履いていたらしい。
しかし今のお坊さんは草履を履いて出かけます。その理由は2つあります。
- 道路が舗装されており、ぬかるみが無いから。
- 車などの乗り物を運転するようになったから。
足下が不安定なところの移動は、下駄が優れているのですが、今の時代、街中の多くは道路が十分に舗装されており、ぬかるんでいるところがほとんどありません。
そのため草履や雪駄の方が地面にフィットするため、歩きやすく好まれます。また最近の草履や雪駄は防水加工を施されているので、多少の湿気にも強くなっています。
そして下駄が使われなくなった一番の理由として、乗り物での移動が当たり前になったことが挙げられるでしょう。
下駄は一本または二本の歯が板から地面に伸びています。そのため接地面が少なく面を足裏全体で押し込むのは難しく、車や自転車のペダルを踏む(操作する)のが非常に難しいのです。また仮に電車やバスに乗り自分が運転しない場合であったとしても、下駄は不安定な履物ですので、移動はしやすくても立ち止まった状態を維持するのは疲れやすくなります。
乗り物による長距離移動が当たり前になった現代では下駄は選ばれにくいのです。ちょっとした移動には便利なのですが。
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さいごに。下駄を履くお坊さんは増えないのかな
子供のころ、下駄は天狗の履物というイメージがありました。平成には下駄が珍しくなっていたので、下駄が昔はよく使われていた履き物とは知らなかったからですね。
正直私は下駄と草履の使い分け方は知りません。インターネットで調べますと下駄屋によっては、下駄はカジュアルな履物・草履は着物の正装と書かれているウェブサイトもありました。
下駄という履き物が現代のライフスタイルにはやや合いにくくなっていることと、草履や雪駄も防水機能が優れていることから、下駄がお坊さんの中で流行ることはこれからはないのだろうか。
カランコロンと鳴り響きながら移動する様子は、私の想像の中だけですが非常に風情があってよさそうに思います。しかしもしも下駄と衣の組み合わせがカジュアルな印象を与えてしまい、仏教行事をするお坊さんの雰囲気に合わないのであれば、やはり下駄を履くお坊さんは増えないことになると思います。やっぱりオールマイティの草履がベストなのかな。
ちなみに下駄が履かれなくなった間接的な理由としてもう一つ挙げるならば、下駄で歩かれるのを嫌う人がいたのもあったそうです。
住職が30年ほど前に経験した例では、ホテルや会館などのカーペットや石畳みの床では、下駄で歩くと傷がつくという理由で、「下駄を履かないで」と貼り紙があったそうです。今はそのような貼り紙を見ることがないので、今なら履いてもいいのかも。