こんばんは。 僧侶のかっけいです。
現代では新暦基準で年間の行事が多く決められているように思われています。
しかし実際はどうでしょうか。
意外と旧暦や月遅れのイベントはそれなりにありますし、積極的に採用していることもあります。
例えば明正寺桜(みょうしょうじざくら)は別名に涅槃桜(ねはんざくら)と呼ばれています。
理由はこの桜の開花時期が3月10日~3月中旬と、お釈迦様が亡くなられた(涅槃)、旧暦2月15日の月遅れの頃だからです。
今回はお坊さんの私が感じる「旧暦や月遅れは意外と仏教行事などでは使われている」話です。
旧暦は月の満ち欠けが基準。だから分かりやすい。
新暦は日本では明治時代に採用され、現在では広く定着し年間行事の基準となっています。
例えばお正月と言えば、新暦1月1日のみに祝いますよね。
しかし東アジア諸国では旧暦1月1日に祝うことの方が主流だとされます。
なぜ旧暦を採用しているかという理由は私の推測ですが、おそらく古くからの行事は旧暦の方が伝統に合っていたからではないでしょうか。
ちなみに新暦とは地球が太陽の周りをまわる周忌が基準の暦。
旧暦は月の満ち欠けが基準の暦です。
旧暦は月の満ち欠けを基準に考えていますので、月の形をみれば今日が旧暦何日かが分かります。(晴れていればね)
つまり今日がいつの日か簡単に表現できていたんですね。
例えばお釈迦様が亡くなったとされる日はヴァイシャーカ月満月の日と伝わっています。
ヴァイシャーカ月はインド暦で2番目の月なので、満月は必ず旧暦では15日になることから、旧暦2月15日をお涅槃だと定めることができます。
また旧正月1日は必ず新月になります。
1日から必ず月が満ちていくことになることから、新たなスタートというイメージを持ちやすかったのではないだろうか。
新暦と旧暦・月遅れのずれ。
月の満ち欠けはおおよそ29.5日で一周します。
そのため旧暦の一年はおおよそ354日となります。新暦のおよそ365日とはだいぶずれていきますね。
これだけ見てもらってもだいぶズレがあることが想像できますよね。
新暦と旧暦のずれは年によって大きく異なります。
例えば2018年の旧正月1日は新暦だと2月16日でした。これが2017年だと1月28日、2016年は2月8日、2015年は2月19日でした。
目安としては旧暦は新暦の日数よりも約20~50日ほど遅れます。
ですので年によっては2ヶ月くらい新暦よりも遅くなったりします。
月遅れはその名の通り、一ヶ月後の日という意味です。
ただし月遅れが採用されるのは新暦の行事ではなく旧暦に対してであり、旧暦の日付をひと月ずらすことで旧暦の行事を新暦の特定の日にできるようにした工夫とも言えます。(ですので月遅れの正月はないのですが、仮にあるとすれば新暦2月1日ということになります。分かりやすいですね)
新暦と比べて、旧暦は年によって大きくズレて遅れるが、月遅れは分かりやすく一ヶ月遅れとなる。
仏教行事では旧暦や月遅れが結構多い印象。
月遅れ行事としてかなり有名なものに、「お盆」がありますね。
お盆は旧暦7月15日ごろとなっているのですが、実際に旧暦7月15日にしようとすると新暦8月頭の年もあれば9月始めになることもあります。季節感に合わないと言いますか、新暦が浸透した現代ではなかなか旧暦盆は難しいですよね。
ということでお盆は月遅れにする地域が多いです。浸透した理由は分かりませんが、子供たちの夏休みに合い家族そろっての先祖参りがしやすかったからではないかな。
冒頭に挙げた「涅槃桜」も似ています。
お涅槃は旧暦2月15日ですが、実際の開花時期は新暦3月15日頃です。でもただ明正寺桜にするとインパクトに欠けるので、月遅れのお涅槃に開花ということで涅槃桜にしたのではないでしょうか。
4月8日のお釈迦様の誕生日法要「灌仏会・花まつり」も月遅れの5月8日にする寺院もあります。
別に月遅れにするだけでなく、旧暦採用の行事もあります。
例えば浄土真宗では「親鸞聖人のご命日法要」があります。旧暦11月28日ですね。
ですので西本願寺や専修寺などを除いて真宗各派本山は新暦11月28日に法要を行い、西本願寺などは親鸞聖人が亡くなった年月を新暦換算した新暦1月16日に法要をしています。
ごちゃごちゃ説明して分かりにくいかもしれませんが、何が言いたいかというと、一つの仏教行事や関連することに対して、新暦・旧暦・月遅れと自由に採用しているということです。
なぜそんなことになっているのかはまた私の推測になるのですが、おそらく仏教行事は各地域や各寺院ごとに行われていることなので、無理に日にちを固定せずにやりやすい日を選んだ方が多くの人がイベントに参加しやすかったのではないでしょうか。
日をずらすことで、今日はこの場所で行事があり、また日を変えてまた同じ行事が他の場所であると、お互いが競合せずにイベントができたのではないだろうか。
行事の期間を幅広く持つと柔軟な対応ができるのが、旧暦や月遅れを採用している理由となるのではないかな。
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さいごに。日をずらすことでイベントがしやすく参加者が増える。
西暦が浸透した現代でも、行事には旧暦や月遅れを取り入れることがあります。
それはイベントの日を一日に指定するのではなく、幅広く持つことで柔軟に対応できて参加しやすいイベントにしやすくなるからではないだろうか。
日をずらすという考えは他にも「○○月」という「この月はこの行事をする月」という考えにもあてはまると思います。
例えば彼岸の頃(3月21日頃)には寺院では彼岸会法要があります。しかしこの日にちを固定すると、お寺同士が柔軟に対応できないですよね。ですので3月4月を「お彼岸月」にして3月4月の好きな日に寺院ごとに「彼岸会」「永代経」「花まつり」、さらには「月遅れの涅槃会」などがあったりします。
- 「旧暦行事や月遅れ行事は何のためにあるんだ。」
- 「全て新暦のみ行事にすればいいじゃない。」
と思いそうになりますが、いやいや旧暦や月遅れといったようにずらすことにより、いろんな所で同じ行事ができそれぞれに参加者が増えるようになります。(例えば花火大会が夏のたった一日のみだったら嫌でしょ。それぞれの祭りが日をずらしているからあっち行きこっち行きができるでしょ。日をずらすのが重要)
ちなみに日本では旧正月をお祝いしている地域は少ないようですが、私の住んでいる地域では老人会の人たちが毎年町内の神社と寺院をそろってお参りしています。
その旧暦正月に自坊のお寺でした旧正月参りの様子をこちらで紹介しています。『お寺での旧正月祝いの様子を紹介』
新暦正月は家族そろって過ごすことが多いでしょうが、ひと月近く遅くなった旧暦正月だとお年寄りの皆さんは集まりやすく地域のつながりができやすいのでしょう。