真宗僧侶のかっけいです。
仏教スタイルの法事や葬式では、導師(お坊さん)は何度も自分の目前にある香炉にお香をくべます。
仏様にお参りするためには、奈良・平安・鎌倉時代から続く伝統仏教教団において、3つの共通した供養があります。それは「お光(燈明)」・「お花」、そして「お香」となります。
お香の供え方にも色々ありますが一般的に知られているのは、線香(せんこう)と、抹香(まっこう:粉末状にしたお香)を炭などの熱源にくべて薫らせる焼香(しょうこう)の2種類ですよね。
仏教儀式に置いてお香は欠かすことのできない大切なものなのですが、一般の人にはなかなかお焼香の仕方や回数などの作法は知っているようで知られていないですし、そもそもなぜお香を供えるのかすら知られていないのかもしれません。
さて今回のお話は『焼香のあまり知られていない作法について』紹介します。
私はお坊さんなので法事や葬儀などを多く経験していますが、この作法をしている人は100人に一人もいないように感じます。
[前置き]お焼香とは何のためにするの
私は以前、お焼香の意味について紹介しました。「仏様にお参りする時にお香をお供えすること。お香の役割を紹介」
ここでは簡単にお焼香について説明します。(なお浄土真宗的な説明ですので、他宗とは意味が異なるかも)
- お香を供えるのは仏様参りの基本。お墓でもね
- お香は仏様の世界の妙香を表しており、仏国土を偲ぶため
- お香には煩悩に満ちた心身や空間を清浄にする意味もある
浄土真宗ではお焼香のお香は額に押しいただかない。お香を供えることに意味があるので、お香の粉はつまんだらそのまま右から左へと熱にくべる。
持参するのは数珠だけではない。お香も持ち寄る
法事や葬式に呼ばれますと多くの人は念珠(数珠)を持って行きますよね。ある程度の年齢であれば自分専用のマイ念珠があることでしょう。あとは服装も気になされますよね。
でもお香まで気を使っている人は少ないでしょう。
『え?お香なんて持っていかないでしょう?』と思われるかもしれません。『いやいや、正式にはお香は念珠と同様に持参するんです。』それこそマイお香として。
よく葬儀に行きますと途中で司会が「それではお焼香をして下さい」と案内しますよね。葬儀会館では仏前にて焼香台の前に向かい、一礼・焼香・合掌・一礼をして偲びます。その時にはすでに用意されている焼香台の抹香を使われる人がほとんどです。
でも正しくは自分で持参したお香の粉をお供えするべきなのです。
本来は自分が持参したお香を献じるのが本当の作法でした。すでに用意された備え付けのお香で焼香するのは借りものを献じているので、ちょっと無作法。
前に出ているお坊さんの手元を見るのは難しいですが、式を執り行っている導師は懐中または袂から携帯用の香合(お香を入れる容器)を取り出してお香を供えています。もちろんお坊さんが持参したものであり、非常に香りのよいものを供えています。
実は参列者も同じように、お香は持参し、自分の焼香の時にはさっと取り出して気持ちを込めて供えて合掌一礼するのが正式なのです。
自身がお香を持参して焼香するのが正式だが……
主に西日本で見られる光景なのですが、お葬式や法事でのお焼香のタイミングになるとお参りの人が財布を取り出して、100円玉などのお金を用意しています。あちらこちらからカチャカチャと鳴り響きます。
あれって何のためにしているんですかね。
もちろんその地域の習慣というのもあるのですが、一つ由縁としては「自分で用意せずに借りたお香へのお礼」という意味です。
「本来はお香を持参して仏前にお供えするべきだが、この法座に用意してお参りできなかったので、ここのお香を使わせてもらいお供えさしていただいた。これはそのお香代として」
お香を持参できればなによりのなのですが、実際にはほとんどの人が持ち寄っていません。
これは仕方のないことかもしれません。
なぜなら「お焼香の粉を持参しなさいよ」となると急にお参りするのに敷居が高くなってしまうんですね。
それよりかは持って行くものは最低限の念珠だけとしておくと、お参りの人は楽な気持ちでお参りできるんですね。お香を急に用意できない人もいるでしょうからね。ふらっと家に伺ったときにもお仏壇に手を合わしますが、常にはお香を持っていないこともあるでしょう。
でもね繰り返しますが、正式にはお焼香用のお香は持参するんですよ。
ちなみにですが皆さんは御仏前の他に「御香典・御香料」を包まれることもあるでしょう。あれは金銭的な負担を和らげる意味もあるのですが、お香のお供えをお金にかえて供えている面もあります。ですのでお香を持参するのが正式なのですが、やっぱり用意するのは面倒なのか、用意されているお香を使わしてくれになるのでしょうか。
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さいごに。持参したお香を使わなくてもいいのはどんな時か
さて繰り返し繰り返しになりますが、仏様に参る時にはお香を供えます。そしてお焼香の時には持参したお香(抹香)を使うのが正式なやり方です。
ですのでお坊さんは葬儀会館での葬儀では持参したお香を香炉にくゆらせています。
ですがお坊さんもお寺での法要や葬儀などでは持参したお香を使わないこともあります。
それは主に2つの時です。
- お香料・お香典をしっかりと包んでお供えしているとき
- 焼香台に用意されているお香が非常に質がよく香り良いとき
葬祭業者が悪いと批判するわけではありませんが、葬儀会館で使われているお香は非常に質が悪いです。香りもよろしくないですし、お焼香すると喉が痛いです。煙も大して出ないのに咳き込むってナゼ?
お香はなんでもいいのではなく、沈香や白檀・伽羅などの香木、そして丁子や安息香のような香料を混ぜ合わせた香りのよいものを供養の気持ちでお供えするものなのです。
ですので持参するお香もできるだけ香りのよいものを選び、簡便にお参りするのであればお香料などにかえてお供えしてお香を借りればいいのです。
お寺で用意しているお香は場面によって違いますが、基本良い物を用意しています。普通の法要法事でも1グラム数十円~100円程度ですかね。お寺での法要ではお焼香台を参列者に回すことがあるのですが、その時のお香は非常に良いものを用意しているので、わざわざ持参したお香を使わなくても十分なお供えができるのです。もちろん持参したお香を使ってもOKです。
備え付けのお香よりも明らかに持参したお香が悪く、とても仏や先祖に供えるのに相応しくないなあと思うのであれば、持参したお香を使う必要はありません。
さて長々と『焼香のあまり知られていない作法について』、『焼香に使うお香(抹香)は持参するのが正式だと』ということを紹介しました。
もちろん今までどおりお焼香の粉を借りてもいいのですが、仏様への供養として自分が選んだお香をお供えしてみてはどうでしょうか。なお余談ですが、お焼香した後の手はタオルで拭いたり水で流したりする必要はありません。