僧侶のかっけいです。
葬儀会場はこの20年で大きく変化しています。20年前は自宅での葬儀がもっとも多かったのですが、今では葬祭業者の用意した葬儀施設での葬儀が日本全国で当たり前になりました。
割合で言えば、9割近くが葬儀社の有する葬儀会館・斎場、1割程度に自宅、5%ぐらいが寺院や教会などの宗教施設、数%が地域の集会場や公共施設となっています。
葬儀の喪主というのは人生において何度も経験するものではないので、なかなか葬儀場所の選び方を知らない人が多いのではないでしょうか。
最近では病院で亡くなるのが8割程度と当たり前のこととなり、病院で死亡するとすぐに葬祭業者が寝台車を手配して遺体を引き込もうとします。そしてそのまま葬儀業者や葬儀会場を選んでしまうこともあります。
さて今回は「お寺で葬儀をすること」について書いていきます。
お寺での葬儀は「地域による違い」・「普段でのお寺との付き合い」・「寺院ごとの違い」などと一概には言えないのですが、お寺でする場合の方が費用面で安く抑えることができることもあります。
そもそもお寺で葬儀はできるのか
意外にもお寺で葬儀ができるのかと疑問に感じる人もいるようです。いや、聞かれるまで考えもしなかったという人もいます。
結論を言えば、すべてのお寺は仏式スタイルの葬儀ができます。
なぜならお寺にある建物は、仏教儀式・仏教行事をするための空間だからです。
そのため先祖代々のお世話になる菩提寺・檀那寺で行う葬儀は信頼関係があり安心ができ、宗教的な厳かな雰囲気で執り行われ、儀式的なことによって気持ちの整理がつきやすいといった利点があります。
ふだんから付き合いのあり、お参りに行っているお寺を会場にするというのは、これからの付き合いもあわせて安心のできる葬儀場所選びになります。
お寺での葬儀は葬儀会館とはどのように違ってくるのか
お寺での葬儀は葬儀する場合は、葬儀業者による葬儀と勝手が大きく違ってきます。
なぜかと言いますと、寺院や僧侶というのは葬祭業を経営しているのではないからです。
あくまでも遺族や喪主からの葬儀の会場をお寺でしてほしいという希望・依頼があって、寺院側がどうぞお使いくださいと承ることができるのです。お寺が積極的に「どうぞ葬儀をするなら私の寺で・お安くこの料金でしますよ」などと宣伝しますと、それは葬祭業とみなされてもしかたないでしょう。
葬儀専門の職員がいないお寺というのは、葬儀業者の有する葬儀会館と勝手が大きく違います。それこそサービスが悪いなあと感じるかもしれません。
ですのでお寺でする葬儀がどのようなものであるかを説明します。
お寺で葬儀をする時の注意点・制約
ほとんどのお寺には職員がいません。そのため単純に人手不足です。
また先ほども言いましたが、寺・僧侶というのは葬祭業をしているわけでないので、遺体の化粧をするわけでもなく、遺族の代わりに自治体に死亡届を提出したり火葬許可証の受け取りをするサービスはしません。
お寺によってはそれらのサービスを僧侶の手でする場合もあるでしょうが、多くの場合は葬祭業者に連絡をして遺体の化粧や納棺を依頼すると思います。
そのためお寺で葬儀をする場合でも、完全に葬儀社の助けを一切借りないというのは難しいです。遺体を移動する際の寝台車や霊柩車の用意もしてもらわないといけないからね。
- 葬儀業者の助けが少しは必要
- 宗旨・宗派が限定される
- お寺のやり方もある程度受け入れないといけない
- 大人数の葬儀は難しいこともある
- 会場がバリアフリーではないことも
- 会場に宿泊空間・風呂は用意されていない(宗教施設だから)
お寺の施設は本来、檀家や信徒の信仰の場所としてつくられた建物です。そのため少なくとも仏教という宗旨が最低条件になります。神道やキリスト教の葬儀はできません。また宗派も限定されてしまいます。
例えば私のお寺は真宗(浄土真宗)興正派という宗派です。僧侶も真宗興正派ですし、教義・作法も真宗興正派にのっとり行います。これが同じ浄土真宗だからと言って真宗大谷派や浄土真宗本願寺派の葬儀をしてくれと依頼されたり、その宗派の喪主から依頼されてもできません。
また普段からお付き合いのある檀那寺や菩提寺があるにもかかわらず、別の寺院にて葬儀をする場合も、葬儀を依頼された寺院側の判断で断られることもあります。
お寺というのは檀家・門信徒がお参りする空間であり僧侶はそこを預かっています。そのため、そこを会場として使用する場合はある程度お飾りの仕方などを指定されたりします。
そしてお寺によっては広い駐車場が無い場合や高い石段があったりと、足腰の悪い人や遠方の人を満足に受け入れるのが難しいこともあります。
そのため自ずと20人~30人程度の家族や親族を中心とした人数の抑えた葬儀になりがちです。車椅子の人・高齢者には辛いこともあります。
もちろんこれらの注意点・制約はお寺によって違ってくるので、お寺に確認をしておきましょう。また葬儀をお寺でしたい場合は生前にお寺で葬儀をしたいことをそのお寺の僧侶に相談しておいた方がいいです。前もって相談しておくと、自坊で葬儀をするときの注意点を説明してくれるでしょう。それを聞いたうえでお寺で葬儀するかを決めた方がスムーズです。
お寺で葬儀をするメリット
- 厳かな雰囲気で葬儀ができる
- 低価格で葬儀ができるかも
お寺を葬儀会場として使用する場合はある程度お飾りの仕方などが指定されたりします。つまりお寺のやり方を受け入れないといけないといいますが、言葉を変えれば、この料金でお飾りをしてほしいと頼めば、お寺の手で予算に収まるように生花や盛篭を手配することができます。
ただお寺というのは宗教施設であり、仏教儀式をするための空間です。ですのでそのままでも非常に厳かな雰囲気が保たれており、また必要以上に凝ったお飾りをする必要がありません。(なんかよく分かりませんが、葬儀会館での葬儀では棺の向こう側、葬儀社が祭壇って呼ぶところにウェーブのかかった訳の分からないお飾りをあえてしたりはしません)(お堂には常に須弥壇と仏様が安置されており、祭壇の料金が発生しません)
不必要に華美にすることなく、シンプルながらも厳粛な雰囲気で葬儀ができるからこそ、料金を抑えられたりします。
ひょっとしたらお寺によって違うかもしれませんが、自坊では花屋や青果店と特別な取引はしていませんので、キックバックはいただいていません。そのため一万円の生花を喪主より依頼されれば、そのまま一万円分の生花をお飾りし領収証を喪主に葬儀後お渡ししています。葬祭業として葬儀を受け持っていないからこそ、お寺を選ばれた喪主や故人の希望のままに葬儀をできるのもメリットでしょう。
ですのでお寺で葬儀をすれば低価格で葬儀ができる理由は、葬儀という業務に利益を得るために料金負担を喪主に負わせないからです。頼まれた金額のままにできる限りのお飾り準備をさせたいただくのです。
そのため料金が余分にかかるとすれば、遺体の化粧や霊柩車の手配など、葬儀業者の助けがどうしても必要な時に発生するお金『葬儀業者に支払うお金』が発生します。ですので夏場の気温が暑い時期や遺体の傷みが激しい時や、葬儀の後の会食を葬儀業者に依頼すると、その分葬儀社に支払うお金が増えたりします。(また余談ですが、葬儀業者はあれこれと介入しようとしますので、喪主が依頼してもいないのに司会が葬儀に来たり、不必要に大人数で葬儀当日にお寺に来たりします)
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さいごに。「寺院葬」お寺での葬儀は選択肢の一つ
何度も繰り返しになりますが、お寺は宗教施設であり、葬祭業者ではありません。
しかし葬儀というのはどこでも、20年前では自宅でするのが最も多かったほどです。
自宅で葬儀していた時はどのようにしていたでしょうか。おそらく葬儀業者には祭壇や寝台車や霊柩車の手配を依頼していた程度ではなかったでしょうか。
町内・自治会の人が公民館で非時の食事を作ってくれたり、親戚が役場に届け出や火葬の許可や棺の依頼をしたり、駐車場・控室・司会を町内の人にお願いしたりとそれぞれが助け合ってしていたはずです。
葬儀の場所というのはどこでもできます。その中の一つが寺院葬(じいんそう)、お寺での葬儀です。
私の知っているお寺では、住職が地元の葬儀業者にお願いして遺族が支払う葬儀費用を20万円に指定して、お寺で葬儀をするようにしています。少しでも遺族の金銭面の負担を減らしたり、お世話になったお寺で葬儀をしたい故人の生前の希望を叶えるために住職が頑張った結果です。
自坊では数年に一度の頻度でしかお寺での葬儀がないため、葬儀業者に特別なお願いをしたことはありませんが、最近の葬儀では「生花などのお飾り代に約10万円・二日間の遺体安置会場施設料金に10万円・お布施」をお寺が受け取りました。後は葬儀業者がどれだけ料金を請求したかです。おそらく葬儀業者の有する会館ですべてする葬儀よりも費用を抑えられていたと思います。
必ずしも葬儀にかかる費用が抑えられるとは限りませんが、お寺での葬儀は選択肢の一つとして常に候補に挙げられます。
それこそもしも普段から寺院とお付き合いがあり、故人が生前に希望しているのであれば、喪主になるであろう人は故人が生きているうちにお寺に相談してみてはどうだろうか。お寺によって寺院の使い方に違いはあるでしょうし、中には葬儀しない方針のお寺もあるでしょう。
話を聞いたうえで、お寺での葬儀よりも葬儀業者の有する葬儀会館を選択してみてはどうだろうか。亡くなってからでは会場選びは非常に困難になりますから。