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第68回目のラジオ配信。「香川で使われる言葉」がテーマです。(BGM:音楽素材MusMus)
私がこの音声配信をする場合に気をつけていることがあります。それは意識して、方言を使わないようにしていることです。
生まれも育ちも香川県でなおかつお坊さんの私は、香川のいろんな場所に行っていろんな世代の人とお話します。すると自然にいろんな香川の方言を耳にして覚えてしまって、自分もふと無意識にしゃべってしまうんですね。
香川の人同士ならそれでもいいんですが、全国いろんな所から聞いてくださっているこの音声配信ではなるべく耳にすっと聞いてほしいので、方言を使わないように使わないようにと意識しています。
ただし今回のお話の内容は、香川の方言についてです。
この10分ぐらいの短い時間で多くを紹介することはできませんので、今回はかなり絞って、香川県で非常によく使われている言葉の変化についてと、香川県の人でも使い分け方が難しい言葉についての2つを紹介します。
トータルで10個ぐらい方言を紹介できればと考えています。なお注意事項ですが、これから紹介する方言は、私の人生経験で感じてきた今実際に使われている香川の言葉です。ひょとしたら、香川オリジナルの方言でないかもしれません。
ですので正確にいえば、讃岐弁ではなくて、今の香川の人が話している言葉ってだいたいこんなニュアンス・意味合い・場面で使う言葉なんだなあって思って聞いて欲しいです。
まず日常的によく使われる言葉から話します。
例えば標準語で「近いから、歩く」という文章があったとしうましょう。これを香川の方言にすると「近いけん、歩く」・「近いきん・歩く」・「近いきに、歩く」といった形になります。
香川県では「何々やから、何々なので」といった理由や原因を表わす言葉は、「けん」や「きん」や「きに」といった方言にかわります。
香川県の方言分布は大きく分けて2つらしいですが、私はこの「けん・きん・きに」に関しては3つあると思います。
けんは香川県の東にある高松を中心とした地域の言葉で、きんは西にある丸亀を中心とした地域の言葉です。
これは古くは東を高松藩が治め、西は丸亀藩が治めていたからだとされます。そのため方言の分布は藩の境の土器川ともされますが、人の行き来が激しくなった現代では「けん」を使う人が圧倒的に増えていると思います。
一方で高知県や徳島県に近い香川の南の地域、山の方では「きに」を使っていることもあります。これは香川の方言だったというよりも、高知の土佐弁あるいは徳島県の山間で使われていた言葉が入ったのかもしれません。
私の家族の場合、母は東の高松の人、祖母は南の山あいの人、私は西の丸亀の人なので、家族の中で「けん・きん・きに」がごちゃ混ぜになっています。
- 火曜日やけん、ゴミを出すで
- 火曜日やきん、ゴミを出すで
- 火曜日やきに、ゴミを出すで
どれも香川でよく使う言葉です。ただし私の感覚では、けんを使う人が圧倒的に多く、きにを使う人はかなり少ないです。私はきんを使います。
続けて「えらい」です。
大人になったら「えらい」なんてなかなか人前で言うことができませんが、香川県の子供たちは、例えば勉強の後や運動の後に、あっちこっちから「えらい」や「えらー」や「えっらー」なって言葉が聞こえてきます。
標準語では「しんどい」や「疲れた」の意味になります。
大学生のとき私、屋外のフィールドに出て学ぶことが多かったんですけど、そのときに「えらいよね」って何気なしにいうと、何が「偉いの?・立派なの?」ってぽかんとされたんですね。
あれはビックリしました。当たり前だと思っていたのに、通じなかったのは衝撃的でした。これ以降、香川の人前以外では「えらい」はなるべく使わないようになりました。
ちなみに発音は、「え」を添える感じで、「ら」を強くいう感じです。
続けて紹介するのは動詞の語尾のよくある変化です。
香川では現在の動作の進行を表わすときに、「じょる」や「しょる」や「きょる」のように語尾が変化します。
これはかなり感覚的な言葉の変化ですので、まずはどんなニュアンスで使うのか例をいくつかあげてみます。
- 今しゃべっている⇒しゃべんじょる
- 今話している⇒はなっしょる
- 今聞いている⇒きっきょる
- 今紙を切っている⇒切んじょる
- 今書き物をしている⇒かっきょる
- 今車を動かしている⇒動かっしょる
- 今洗濯ものを干している⇒ほっしょる
- 今荷物を積んでいる⇒つんじょる
- 今靴を履いている⇒はっきょる
ちょっとした一例ですが、こんな風に今やっている動作を表現します。
また言いやすさからか、「ん」がつくこともあります。
- 飛行機が飛んでいる⇒飛んびょる
- お皿をとっている⇒取んじょる
- 扇風機が回っている⇒まわんじょる
- 学校から帰っている最中⇒かえんじょる
またすべての動詞が「しょる」や「じょる」のように変化できるわけではありません。変化できないものもたくさんあります。
例えば「ボールを投げる」は「ボールを投げじょる」にはなりません。ひょっとしたらそんな言い方をする人もいるかもしれませんが、私は聞いたことがないですし違和感がありすぎです。
投げるを「ほおる」と表現するなら、「ボールをほおんじょる」とは言えます。
私が思うに、動作が一瞬あるいはすぐに終わってしまうものには、「じょる」や「しょる」や「きょる」の変化ができないんだと思います。
例えば、「蛇口の水をとめる」という水が止まる動きはすぐにおわるでしょう。だから「とめじょる」とは言えません。一方で、水を止めるために「蛇口をひねる」動作だと「ひねんじょる」とは言えます。
またややこしいですが、自分でする動作では変化できない言葉でも、他がする動作だと変化できることもあります。
例えば、自分が「扉をあける」という動作はたいていあけようと意識してから一瞬で終わることなので「あけじょる」とは表現できないのですが、自分以外の誰かがしてくれる扉の開閉を待っている状況だと「扉があっきょる」という風に言えます。
他にも例えば天ぷら料理をするとき、自分が「てんぷらをあげている」を「てんぷらをあげんじょる」とは言えないですが、揚げられている天ぷらを中心とすれば「天ぷらがあがんじょる」と言えます。おうどんをゆでる時に、「おうどんがゆでんじょる」とは言えず、「おうどんさんがゆであがんじょる」となるようにです。
この現在の動作の進行をあらわす変化は、変化できる言葉と変化できない言葉、変化できる状況と変化できない状況といろいろあって、けっこう感覚的に覚えているところがあるので、説明するのがとっても難しいです。
「勉強でっきょんな」と聞かれて子供が「今やんじょる」と答えるのは、どこのご家庭でも一緒だと思います。
ちなみに動作の完了・終わりを表わす場合は、「た」や「とった」が組み合わされます。
- さっきまで雨はふっていたんだよ⇒ふんじょった・ふっとった
- さっきまで勉強やってたんだよ⇒やんじょった・やっとった
あともう一つだけ付け加えると、「じょる」や「しょる」とかの他に、「りょる」と変化できる動詞もあったりします。
例えば、
- 雨がふんじょるが、雨がふんりょる
- 勉強やんじょるが、勉強やんりょる
- 爪をきんじょるが、爪をきんりょる
- 道をまがんじょるが、道をまがんりょる
- 旅行からかえんじょるが、帰んりょる
などがあるます。
ただしこの「りょる」は変化できる言葉が少ないですし、たいてい「んじょる」で代用できるので、あんまり使われる機会のない言葉だと思います。
私違和感があるんですけど、誰かがどこかで「餌を食べりょる」という言い方をしていたと耳が覚えているんですね。耳にしたときはそんな変化できるのかなあと違和感を感じるんですけど、いざ「食べりょる」と口にするとそんなに変な感じがしないんですよね。
ややこしくなるので、ここではもうこれ以上は言いませんが、
- 「ぎょる(急んぎょる)」
- 「にょる(お風呂に入んにょる)」
- 「びょる(公園で遊んびょる)」
- 「みょる(コーヒーを飲んみょる)」
になるときも少ないながらあったりします。香川の人と話をするときは、語尾の変化に注目してみたら面白いかもしれませんよ。
さて話が長くなってきましたが、続けては、香川の人でもあんまり使い分け方がよくわかっていないかも?よく似ている言葉についてお話します。
それは「わや」と「ごじゃ」です。
どちらも乱雑な状態とか、無茶苦茶な状態を表すのが一般的です。
私なりの感覚だと「わや」の方が「ごじゃ」よりも程度が低くつかいやすく、香川の人はどちらかといえば「わや」の方が多く使っているような気がします。「ごじゃ」はきつい感じがして人に向かっては言いにくいです。
例えば、家庭菜園で畑にキュウリのネットを張っていたとして、大きな台風がやってきたとしましょう。
その結果、
- 台風でわやになった
- 台風でごじゃになった
どちらも台風で、台風でキュウリのネットが倒されたりして散らかったんだなあとわかるんですけど、「わや」だと倒されただけで済んだかもしれないですけど、「ごじゃ」だと倒されただけでなく畑が水没したりキュウリを支えていた支柱ごとなぎ倒されていて、修復不能な状態になっているのかもしれません。
わやは散らかりはするんだけどもまたやり直せるとき。ごじゃはもうやり直せないときの「ごわさん」な状態になっているようなニュアンスだと思います。
例えば、そろばんで計算して答えを出しました。
答えを書くために席を外していたときに、子供がきてそろばんの珠を動かしてしまいました。
すると「なんで、わやになっているの?」、「なんで、ごじゃになっているの?」みたいなことになるでしょう。でもわやの方がやさしい感じがしますし、「いいよ気にしないで、まだ数字覚えているから大丈夫」だったり、「もう一回計算すればいいだけだから」みたいな感じになると思います。
でもごじゃを使う場合は「え~もう一回やり直さないといけないの?だれがこんなことしたの」と怒り心頭な感じがします。
ごじゃというのは、苦労して作ったもの・完成したものが壊れた時に使う気がします。そしてまたやり直すのがしんどい。台無しみたいな感じでしょうか。
例えばお母さんが洗濯ものを丁寧にたたんだとします。
いたずら好きな子供に対して、「わやにしたらダメよ」という場合は、「いたずらしてしわをつくらないでね」みたいに私は感じますが、「ごじゃにしたらダメだよ」だと、「たたんでこれから仕舞うんだから、ぜったいに崩したらダメよ。また畳みたくないよ」みたいな印象を受けます。
これは言い方の問題もあるんでしょうが、私の感覚からすれば、「ごじゃ」は「わや」よりも程度のきつい言い方をしているように感じます。
なんにせよ、この「わや」と「ごじゃ」は乱雑な無茶苦茶なダメダメな・壊れてしまったようなときに使う言葉なのですが、人によって使い分けが変わってくるなんとも難しい言葉です。
ちなみにこれに関して似たような言葉に、
- じょんならん
- めぐ・めいだ・めげる
- つぶれる
- ぞろな・ぞろい
- ざまくい
- ふが悪い
- ひろげてからに
があります。
簡単にそれぞれ説明すると、じょんならんは「散らかったり壊れたりでもうメチャクチャな状態で、もうどっから手をつけたらいいか分からない。」あるいは暑すぎたり寒すぎたり雨がずっと降ったりで、やる気の全く起こらないときにいいます。
めぐ・めいだ・めげるは、物が壊れた状態を言います。
つぶれるというのは標準語にもあって、方言ではないのですが、意外と香川県の人は使っていると思います。
例えば「あのおうどんやさんってつぶれたんかなあ」というように。この場合のつぶれるというのは営業をやめる・もうおうどんはつくらないのかなあといった感じで使うんですね。
香川の人が使うこのときのつぶれるは、お店の形が残っているときによく使います。お店がなくなったら、なしになったのねってわかるんですけど、建物の形があって営業を止めているのかなあっているときは、「つぶれたのかなあ?」という表現をするんですね。
建物が残ってても使うのが特徴です。
ぞろい・ぞろなというのは、整理整頓ができていなくて散らかった状態、あるいは清潔でなくて見苦しい様子をしているときに言います。いつまでも汚れた格好をしていたり、庭や畑を草だらけにしていたら、「ぞろ」な状態だと思われちゃいます。
「ざまくい」も「ぞろ」とほぼ一緒です。さっきの「わや」と「ごじゃ」のように人によって使い分け方が違います。
個人的には、「ざまくい」の方が「ぞろ」よりもきつく言われている感じがします。
- ざまくげなカッコしちゃだめよ
- ぞろげなカッコしちゃだめよ
を比べると、ざまくげな方が見苦しくして人には見せられない状態なんだなあと私は思います。
「ふがわるい」も「ざまくい」や「ぞろ」とよく似ていいますが、こちらは恥をかいた後、あるいは恥をかくのが明らかな場合に戒める感じで使う気がします。
「ふがわるい」のは、世間一般・誰が見てもよろしくない状態なのだからそれは避けてね、みたいなニュアンスです。
「ひろげてからに」は祖母からよく言われました。「あなたが散らかしたんだから、散らかしたままにせずに、はやく片付けなさい」といったニュアンスです。
こんな風に今、話してみると
- わや・ごじゃ
- じょんならん
- めぐ・めいだ・めげる
- つぶれる
- ぞろ
- ざまくい
- ふが悪い
- ひろげてからに
と、香川の人はけっこう散らかった状態やダメダメな状態・見苦しい状態に対して、いろんな言い方をしているんだなあと感じました。
なお今回紹介した香川の方言の意味合い・使い方は、実際に私の経験した中でのお話です。
人によってはそんな使い方はしなかったり、そんな言い方は聞いたことはないという人もいるかもしれませんが、私はこのような感じで受け止めて今まで生きてきました。狭い香川県ですが、いろんな言葉があふれているもんです。
もし次回も香川の言葉を紹介する機会があれば、次はほとんど使う人がいない・使う機会がないマイナーな方言・讃岐弁を紹介しようと思います。
たとえば「ひしてがい」という讃岐弁です。おそらく知ってないと想像もできない意味です。
次回があったらお話しますし、興味があれば香川の人に聞いてみてください。若い世代ではもう使わないかもしれないので、ご年配に聞いてみてください。
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