9月10日頃から田んぼやお墓に赤い花が出てきますね。9月23日頃のお彼岸に咲くため「彼岸花(ひがんばな)」と一般的に呼ばれます。
彼岸花は英語で「red spider lily」と表現されます。「赤い蜘蛛のユリ」とちょっと怖い名前ですね。日本語では多くの不吉な名前・怖い名前があります。一方で、仏教に関係する素晴らしい別名もあります。
「なぜ彼岸花には不吉な名前が使われているのか」をテーマに、お彼岸に咲く花、彼岸花についてお坊さんが紹介します。
彼岸花は1000を超える別名がある
彼岸花という名前は、お彼岸という時期を表す言葉をそのまま花の名前として使用しているため、わかりやすいですね。
一方で他にも多くの別名があります。それらの多くは悪い印象を与える言葉です。
悪い印象の名前と良い意味の名前を紹介します。
- 彼岸花
- 曼珠沙華(まんじゅしゃげ)
- 毒花(どくばな)
- 死人花(しびとばな)
- 幽霊花(ゆうれいばな)
- 地獄花(じごくばな)
いくつか例を挙げました。 良い印象を与える言葉はほとんどなく、多くはひどい言葉です。
彼岸花には1000以上の名前があると言われています。 熊本国府高等学校PC同好会が『彼岸花の別名』にて、方言を含めた全国各地の様々な呼び名をまとめています。
また 『12ヶ月のしきたり : 知れば納得! 暮らしを楽しむ(2007年新谷尚紀監修)』によると、彼岸花には「情熱」「悲しい思い出」「独立」「再会」「あきらめ」の花言葉があるとされます。
なぜ怖い不吉な印象を与える言葉が多いのか?その理由を説明していきます。
不吉で怖い名前がある理由
不吉で怖い名前がつけられたのには理由があります。 彼岸花が咲く場所がヒントになります。
彼岸花が咲く場所には共通点があります。目的があって人工的に植えられたのです。
お彼岸の時期に墓で咲く彼岸花は死を連想するから
彼岸花の赤い花が墓を囲うように密集して咲くのをよく見かけます。また宗教施設でもあるお寺や神社でもよく見られます。
墓は遺体や遺骨を埋める場所です。そして彼岸花が咲くお彼岸(秋分の日前後)は、墓参りして先祖供養する習慣があります。
墓石を取り囲むように赤い彼岸花が咲いている様子は、お参りに来た人にとても不吉なイメージを与えたのでしょう。
墓に咲く花から死を連想し死人花と名づけ、ユラユラと揺れる赤い大きな花を持つ姿が幽霊にも見えたのでしょう。
彼岸花は全体に毒があるから
彼岸花は、球根・花・茎・葉と全体に毒をもっています。そのため食べることはできません。食べると下痢や嘔吐が起こり、ひどい場合は体が麻痺して死ぬことがあります。
誤って食べることが無いように、戒めとして毒花と呼ばれます。
有用な植物だったのでわざと怖い名前を付けた
彼岸花は三倍体であり、自然に増加しません。人間の手によって人工的に植えられました。
彼岸花には毒があります。この毒は人体だけでなく、モグラやキツネやネズミなどにも効果があります。そのため「寺社仏閣」「墓」「川の土手」「田んぼ」などの重要な場所に動物防除として植えられたのです。
- モグラなどが遺体を荒らすのを防ぐため
- 土手や斜面を傷めないようにするため
かつての日本では遺体を直接地面に埋める土葬の埋葬方法がありました。土に埋めた遺体は時間をかけて腐敗し分解され、土は平らになります。しかしモグラやキツネなどが遺体を荒らすと適切に分解することが困難になります。
かつての人たちは、動物を近づけないように、墓や土手に有害な花を植えていたと言われています。有用な植物である彼岸花をあやまって取ってしまわないように、怖い名前をつけて戒めていたのでしょう。
曼珠沙華の意味。彼岸花との違い
悪い印象の言葉はたくさんありますが、一方で曼殊沙華(まんじゅしゃげ)という素晴らしい名前もあります。
曼殊沙華は仏教に関連する花です。仏教経典に登場する花であり、地上に存在しない天上の花とされます。
たとえば、妙法蓮華教では次の1節があります。
是時天雨曼陀羅華 摩訶曼陀羅華 曼殊沙華 摩訶曼殊沙華 而散仏上 及諸大衆
妙法蓮華経序品第一 より
「お釈迦さまが法華経を説こうとする前に、天から曼荼羅華や曼殊沙華が雨のように降り注いだ」のような意味です。
曼殊沙華(彼岸花)は仏教の経典に登場し、仏を供養し仏法を讃嘆する花なので、尊い花として仏教寺院に植えられることもあります。
彼岸花の球根は非常時に食べることができた
彼岸花を墓や田んぼの近くに植える理由は、彼岸花が毒をもち、悪さをする動物を除けるのに役立ったからです。
しかし、彼岸花の球根は長時間水にさらされると、毒が抜けて食べられるようになります。
かつての人たちは食糧不足の年に非常食として食べていたと言われています。湿地に強い彼岸花は田んぼや川のような水辺でも育つため、江戸時代には土壌を荒らす動物を排除する効果とともに非常食として、多くの彼岸花を植えていたようです。
彼岸花は普通に食べるものではないので、子供たちがそれを掘って食べないように、意図的に不吉な名前にしたと言われています。
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彼岸花(曼殊沙華)のまとめ
秋分の時期(お彼岸の頃)に見事に赤い花が咲くので、彼岸花と呼ばれます。また曼殊沙華と呼ぶ仏教に関係する素晴らしい別名があります。
しかし、幽霊花や死人花や毒花のように怖い不吉な印象の言葉がたくさんあります。
彼岸花はかつての人々にとっては非常に有用な植物でした。墓や田んぼや堤防の動物除け、飢饉の年には毒を取り除いて非常食として食べていました。そして湿った土地で育つため、日本中どこにでも植えられました。
現代では9月のお彼岸に墓参りに行くと必ず咲いているので、一部の人からは薄気味悪い植物に感じるのかもしれません。揺れる赤い花は死んだ人や幽霊を想像します。真っ赤な色は死者の血の色だと言う人もいます。
彼岸花に1000以上の名前が付けられたのは、動物除けや非常食として有用な植物であり昔から人間の生活と密接に関係していたからではないだろうか。
English version page [Red spider lily meaning] The reason of hell flower’s name in Japan