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第184回目のラジオ配信。「賽銭箱」がテーマです。(BGM:音楽素材MusMus)
かっけいの円龍寺ラジオ
この番組では香川の浄土真宗のお坊さん、私かっけいが、短いお話をするラジオです。
配信184回目は、お賽銭箱の設置についてのお話をします。
先日、とあるお寺のお世話をしている人から、お賽銭箱について相談を受けました。
はたしてお賽銭箱を新しく設置するべきなのか、それともお賽銭箱は設置しない方がいいのか、についてメリット・デメリット両方の面からお話します。
結論から言いますと、不特定多数の人がたくさんやってくる観光寺院でなければ、私は賽銭箱の設置はあまりおすすめできません。
お参りする人がそう多くないお寺、地方の一般的なお寺であるなら、賽銭箱の設置はよくよく考えた方がいいと思います。
さて、私のいる寺、円龍寺ではながく賽銭箱が置かれていませんでした。
それは私のところが浄土真宗の寺だからです。
賽銭箱はどのお寺や神社にもあると思われるかもしれませんが、浄土真宗の場合は、賽銭箱をおいていないこともあります。
それは願掛け、お願いごとをするために、お金を投げ入れないためです。
浄土真宗は願掛けや厄払い、占いといったことをしません。
もしお寺に賽銭箱があると、そんな気持ちがなくても、仏さまについ「交通安全」や「家内安全」「合格祈願」などといったお願いごとをしてしまうかもしれません。
そんなことがないようにと、浄土真宗のお寺ではそもそも賽銭箱を設置しません。
しかし中には浄土真宗の寺でも、賽銭箱を設置していることがあります。
ですが、その賽銭箱をよく見ると、賽銭の代わりに浄財や冥加、あるいは何も文字を書いていなかったりします。
それはお願いごとのためのお金ではないからです。
そういったわけで浄土真宗のお寺では賽銭箱が置かれていないケースがありました。
一方で賽銭箱を設置しているお寺もあります。
それはどういうわけかと言いますと、一番の理由は、寺院運営・護持のためです。
簡単に言えば、お寺の活動資金ですね。
最近はどのお寺も守っていくのが、大変難しくなってきました。賽銭箱の設置も、少しでも宗教活動の助けになればとの思いからなんだと思います。
さてそれで、私のところ円龍寺では、ながく賽銭箱がなかったのですが、令和2年の2020年10月に本堂の石段下に新しく設置されました。
これには訳があります。
このころは新型コロナウイルスが流行するようになった時期です。外出制限、移動制限がありました。
東京にお住まいの木谷様が、今後生きているうちに円龍寺にお参り行くことが叶わないかもしれないから、お寺に懇志を納めたいとのことでした。
それで木谷様と相談し、今後お寺にお参り来られる人の助けとなるようにと、賽銭箱や石段の手すり、照明を設置することとしました。
賽銭箱設置のメリットの一つとして、手を合わす場所ができるということがあります。
円龍寺はこの目的のために賽銭箱を設置しました。
実は、これまでも賽銭箱の設置はお参りの人から望まれていました。
というのもお金、浄財を置く場所がないからと、しかたなく山門の敷居の上や、本堂の縁の上にお金を置いたり、あるいは、本堂の扉の隙間から中に転がりいれるというケースがありました。
お賽銭箱を設置することは、お金を納めるところができること、また手を合わせやすい場所ができることにつながります。
そういったわけで、2020年に本堂前の石段の下に賽銭箱が設置されました。
実際、お参りに来られる人からは、お堂が開いていない時でも手を合わす場所が設けられたと好評です。
一方で、これからはデメリットのお話をします。
まず金銭的なお寺の活動資金、護持運営の助けのためにはなりません。
もちろんご門徒でない人たち、全国から、不特定の多数の人たちが自然と訪れる、観光のお寺であれば、お賽銭箱のお金は、大変助かります。
しかし地方の一寺院、ご門信徒のためのお寺の場合、賽銭箱にほとんどお金は入りません。
設置費用のことを考えますと、賽銭箱の設置はむしろ赤字です。
私の寺の場合、東京の方の懇志により、賽銭箱が設置されましたが、足りないお金は寺が負担しました。
調べて頂いたら分かりますが、屋外に設置される大型の賽銭箱はけっこう高額です。数十万もします。
固定するための設置費用などもプラスされます。
円龍寺の場合、賽銭箱の設置費用を回収しようとすると、早くて60年、おそらく80年から100年くらいはかかると思います。
お寺の活動を助けるために賽銭箱を設置しても、設置費用が高く、元をとることはなかなか難しいことでしょう。
この元をとるのが難しい理由の一つに、賽銭箱に入れられるお金の額が少ないことも挙げられます。
インターネット上でお賽銭の平均金額を調べますと、150円だったり、170円だったり、280円だったりといろんな平均金額が出てきます。
しかしこれらは、初詣でのお金であったり、そもそも自己申告の金額なので、あまり参考にならないところです。
浄土真宗の本願寺さんが出している2016年の出版物の中で、こんな文言がありました。
参拝者の数をカウントし、お賽銭の総額から計算すれば一人あたりの平均額が6円だったと。
6円というのは、極端に少ない額なので、どこか計算違いをしているとは思いますが、なんにせよ、箱の中に入れられる目に見えないお金というのは、額が少なくなりがちなんでしょう。
私のところの寺の例を実際に紹介してみます。
数えますと、
・100円玉が一番多かったです。全体の約2分の1、50%に少し足りないくらいでした。
・次に、10円玉が多く、全体の3分の1
・次に、5円玉が多く、全体の10分の1
100円、10円、5円で、全体の9割以上を占めていました。
賽銭箱を設置してから三年もたっていませんが、参考になるかもしれません。
仮に、お賽銭を入れた人1人が、一つのお金を入れたとすれば、1人あたりの平均は50円から60円ほどになります。
お焼香といった、目に見えるお金をお供えする時は、多くの人が100円玉を置かれるでしょうが、箱の中に入れる場合は、10円玉や5円玉も多くなります。
もちろん、賽銭箱にお金をいれない人もいますし、複数人で100円一つというお参りの人もいるでしょう。
そういったわけで、お賽銭箱にはそれほどお金が入らず、宗教活動の助けにするには、設置費用の方が高くつくということです。
たくさん観光客が訪れる大きなお寺の場合を除いてでの話ですよ。
もう一つ、賽銭箱のデメリットを話します。
私の住んでいる近くに、遍路道というのがあります。
遍路道とはお遍路さんが歩く道のことです。
お遍路さんとは、弘法大師空海が1200年前に修行した縁のある寺88ヶ所を巡礼している人たちのことです。
円龍寺の少し西の方には、76番札所から77番札所に向かう遍路道があります。
その遍路道には地元の人が手を合わしている、守っている、小さな祠や小さなお堂が点在しています。
かつてその小さな祠やお堂には賽銭箱がありましたが、今では賽銭箱が撤去されています。
理由は賽銭泥棒がいるからです。
そうたいした金額、100円や200円、数百円程度しか入っていないのに、賽銭箱を荒らす人がいます。
賽銭泥棒を見かねて、チェーン、鎖で賽銭箱をくくりつけたらしいですが、お構いなく、ガチャガチャと大きな音を鳴らして荒らしたり、ひっくり返したり、ボヤ騒ぎもあったそうです。
そんなこともあって、地元の人たちは怖がって、今では、お賽銭箱を表に出さなくなりました。
賽銭箱があると、賽銭泥棒、またいたずらする人を招く恐れがあります。
お寺のようにお坊さんが住みこんでいたり、夜中は門を閉めるといったことをすれば、賽銭泥棒は減るでしょうが、それでも賽銭箱を設置するということは、だれかの悪事のきっかけをつくることになるかもしれません。
賽銭箱の設置というのは、そういったデメリットも常に考えなければなりません。
そういった遍路道でのお話も私は聞いているので、人気のないところに賽銭箱を設置するのは止めた方がいいと思います。
以上で今回の184回目の配信のお話を終えます。
新しくお賽銭箱を置くことは、メリット、デメリットよくよく考えて決めて下さい。
それこそお参りの人からの、設置してほしい、あったら助かるという声があってから、設置の検討を進めてはと思います。
寺を護持したいという寺の思い、住職の思い、世話をしている人の思いで、賽銭箱を新しく設置するのは、大した成果がないと思います。
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