お寺や神社、学校でイチョウ(銀杏)が植えられている理由

こんばんは。  僧侶のかっけいです。

落葉したイチョウの木

1月半ばになり自坊の円龍寺イチョウの木も葉がすべて落葉しました。

高さ10メートル近くも高さがあるので非常によく目立つため、参拝者から同じような質問をたびたびされます。

今日は寺社仏閣や学校などにイチョウが植えられている理由を紹介します。

理由があって植えられているのですよ。昔から。

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イチョウが植えられている理由。

防火の願いが込められているから(一番の理由)。

寺院・神社・学校とは人が集まる所です。そして過去から未来へと継承していく建物です。

寺院・神社は宗教的な儀式を行い、地域の催事がある場所ですね。学校とは教育を受ける場所ですね。

昔は現代よりも木造の建物が多く、ひとたび火事が発生すると消化するのはたやすいことではありませんでした。それこそすべてを燃やして灰燼に帰すか、延焼を防ぐために隣の建物を壊していくことでした。消火用のポンプが使われるようになったのが明治になってからですので、それまでの時代は火事というものが非常に恐ろしいものでした。

イチョウという木は水分を豊富に含んでいることが知られています。すなわち難燃性の樹木ということです。

それこそ紅葉・落葉し完全に乾いているように見えていても燃やそうとすると白い煙を発生させます。

燃えにくい樹木を敷地内に植えることで、建物に火災が発生しない願いが掛けられているのです。

建物の目印(シンボル)になるから。

お寺によく植えられている樹木にソテツや松や桜、そして銀杏(イチョウ)がありますね。もちろんこれら以外にも植えられていますが代表的な木を挙げました。

これらの樹木は建物のシンボルになりやすいのです。

表現を変えると、人が集まるときの目印となりやすい木・季節を感じられる木ということです。

松とは一年中常緑でありお参りに来る人に絶えず同じ姿を見せることができ、またやせた土地でも根を張ることで土地を支えてくれます。昔は今よりも治水が十分でなかったため、川の氾濫などが起こるため、寺社仏閣は周りより少し高い位置に建てるなど、土地を維持するための方法がとられていました。

桜というのは春の景色を代表するものですね。特に春の四月八日はお釈迦様のお生まれになった日(降誕会)のことを花まつりといい、春を表す木になります。(花まつりの「花」は桜の意味ではありませんので、誤解無きように)

本題のイチョウは紅葉が美しい秋を代表する木ですね。イチョウは高さが10メートル以上にもなり、上手に育つと高さが30メートル、幹回りも10メートル近くになるほどの巨木になります。そして長寿の木です。樹高が高くなるため、遠方からでも建物をすぐに見つけることができます。

これらの木々は日本の気候に適しているため、日本全国各地で育てられることも、多くのお寺で植えられた要因だと思います。

ちなみにソテツがなぜお寺に植えられている詳しい理由は分っていないことなのですが、私はソテツの雄花・雌花の形が仏教を連想させるからだと思います。そのことについては、「7月になってソテツの雌花と雄花が出てきた」の記事の一番下に書きました。

その他の理由。

  • イチョウの木は丈夫で育てやすいこと。
  • イチョウの木は建材として優れていること。
  • 銀杏の実が食用になり、栄養価が豊富であること。

イチョウは育てやすい木として知られています。

例えば桜を例に挙げますと、枝を落としますと切り口から病気になりやすく、枯らしてしまうかもしれません。また多くの種類の毛虫が寄りやすく、病気にも注意しなければなりません。

一方でイチョウは丈夫な樹木で病害虫が少なくな強健です。強く剪定しても問題なく芽吹く生命力があります。イチョウの株元からは種が発芽し新しい芽がどんどん出てきます。

そしてイチョウは建材としても優れていて、材料も均一でやわらかく加工性に優れて歪みが出にくいので、柱や建具・家具として利用することもできました。

銀杏の実も食用として利用できます。非常に栄養があるため、落果の10月頃からはお寺に拾いに来る人がいます。購入したら高いですからね。

私の過去記事に銀杏の実の栄養成分と食べるときの注意点についてと、銀杏を拾ってから食べるまでの下処理方法について紹介していますのでよかったら参考にして下さい。

イチョウがあるデメリット。

掃除が非常に大変。手がかぶれる。

落葉しない樹木はないのですが、このイチョウ(銀杏)は非常に大変です。

イチョウの葉は油分を含んでいるの雨が降ると滑りやすいです。お寺ですから石畳がありますので、雨が降るとイチョウの葉がピッタリとくっついで竹箒で掃こうにも剥がすことが難しいです。

また落葉の少し前から実が落ちるため、銀杏の実もとらないといけません。子供が知らずに素手で触るとかぶれる恐れがありますし、踏まれると悪臭が発生し染みにもなってしまいます。

10月の初旬ごろから年内いっぱいまで絶え間なく掃除をしなければならないため、大変です。

またイチョウの葉は燃えにくいため、処分に困ります。堆肥に使用にも腐るのも遅いため現実的ではありません。困ります。いつもは困って穴を掘って埋めています。

イチョウの木は燃えない。

デメリットと言ったら語弊がありますが、イチョウの木は燃えにくい木であります。

そのため防火のために植えられているのですが、実際には植えていても建物は火災になってしまいます。

すると火事の時に残るのがイチョウの木ということになります。

火災にならないために植えているのに、火事の後にあるのがイチョウだけって何ですか。円龍寺でも火事の時、本堂や庫裏は焼けきったのですが、イチョウの木は表面が焦げるだけでした。

火事で焦げたイチョウの木

あくまでイチョウの木を植えるのは、建物が火事に合わないという願いということであって、防火には役立ちません。

浄土真宗本願寺派の本山本願寺にある樹齢400年以上の天然記念物の大銀杏は「逆さ銀杏」と呼ばれ、本願寺の火災の時に水が噴き出して火を消した伝説がありますが、あくまで伝説です。


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さいごに。火事は怖い。

円龍寺に植わっている銀杏(イチョウ)は高さが10メートル近くあり、100年以上はその場にあり続けています。円龍寺の歴史を見てきた木であり、円龍寺の火災を何度も経験してきた木になります。

円龍寺で直近であった火災は今から130年ほど前ですが本堂が焼けきるまで3日間火柱が立ち上り、500メートル離れていても熱が届いたと聞いています。

真宗興正派の本山興正寺が明治35年が火災にあったときは一週間燃え続けたそうです。火事というのはあらゆるものを失ってしまいます。

イチョウはただ植えられているだけではなく、多くの人の防火の願いが込められたきになります。建物を守っていくのが私の使命でもあります。

ちなみに円龍寺には30年ほど前まで釣屋(吊屋:つりや)と呼ばれている建物がありました。この釣屋とは本堂と庫裏(僧侶の生活空間)をつなぐ建物で、あまりメジャーな建物ではありません。

言葉で説明するのが難しいのですが、名前の通り釣られているような構造をしており、火災の延焼を防ぐために建てられていました。

具体的には火災が発生したときには釣屋の下に潜り、決められた柱を数本抜くことで、建物が内側にゆっくり崩壊する仕掛けとなっています。非常に素晴らしい仕組みなんですけど、構造が弱かったのでしょうか、現在では全く聞きません。

ともあれ、寺社仏閣・教育施設というのは火事というのが非常に恐ろしいことだったので、火災を発生させないのが・火災を広げないのが昔からの願いでした。

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