三匹の猿・五匹の猿.ラジオ#114

第114回目のラジオ配信。「猿・申・サル」がテーマです。(BGM:音楽素材MusMus)

ラジオテーマ「猿」の内容まとめ
  • 干支のウシトラの方角は鬼の出入り口
  • 丑寅の逆に位置するサルは「魔を去る」と信じられてきた
  • 日光東照宮には「見ざる聞かざる言わざる」の三猿が有名
  • 中国儒教の祖の孔子の論語が由来とされる
  • 動物の猿にたとえたのは比叡山中興の祖の元三大師良源とされる
  • 真言宗須磨寺派の本山須磨寺には五匹の猿「五猿」がある

かっけいの円龍寺ラジオ

この番組では香川に住む浄土真宗のお坊さん、私かっけいが短いおしゃべりをするラジオです。

今回は「動物の猿」をテーマにして雑談していきます。

2021年も12月に入り、寒さも一段と増してきましたね。後一ヶ月もすれば香川県小豆島「おさるの国」では、県指定の天然記念物のニホンザルが身を寄せあって冬の寒さをしのぐ、猿団子が見られるようになります。

新型コロナウイルス新規感染者が落ちついた今年は、12月からの初詣・幸先詣はあまり呼びかけられていないように感じますが、ニュースでは来年の干支の寅の置物や絵馬などが披露されてきています。

本当は猿のお話は申の干支のときに雑談しようとおもったのですが、あと6年も先のことなので、丑年から寅年に移るこのタイミングでお話しようかなあと思いました。というのも2020年から2021年にかけては、鬼滅の刃というマンガ・アニメ・映画がとにかく流行りましたね。

鬼滅の刃は簡単に言えば、主人公たちが悪い鬼を倒す物語です。

日本では古くから鬼のイメージは、ウシやトラに近いものだと考えていたようです。牛(丑)のような角、虎(寅)のような牙を生やしたのが、鬼の姿だと想像したのです。そんな理由で日本昔話で描かれる鬼は、トラ柄のパンツをはいているそうです。

2020年2021年に流行った鬼退治の鬼滅の刃は、ちょうど鬼を連想させたウシやトラの年にぴったり当てはまったのかもしれませんね。

2021年6月1日に配信した89回目のラジオ、「サルはウシやトラよりも強い」でもお話したのですが、北東の方角を意味するウシやトラの干支は、鬼の出入りする場所と信じられていました。またその鬼の出入りする鬼門を封じるために、その逆に位置する南西の坤のサルの動物によって、鬼が去る、魔が去ると信じられてきました。

京都の北東方向の鬼門の先に比叡山のお寺が建てられたのも、都を鬼から守るというそんな理由があるからだと言われています。

さて干支は日本オリジナルの考えではなく、古い時代の中国の暦や時間や方位を表わすものでした。それが日本に伝わり平安時代の陰陽道や神仏習合などが組み合わさり、神の祟りや鬼の禍いという考えになっていったようです。

ウシやトラの方角というのは鬼の出入りする方角であり、ウシやトラの時間は午前1時から午前5時ごろであり、最も暗く寝静まった真夜中のこのウシトラの時間は、魔のものがでやすいもっとも恐ろしい時とされてきました。

一方で、サルはどうでしょうか。

猿は魔が去る、鬼が去ると語呂合わせではよいイメージなのですが、仏教のお経文では「戒めを守らず勝手気ままにふるまう人は、猿が果実を探して木から木へとさまようがごとくである」と譬えています。

また浄土宗の宗祖法然は「私たちの心は物事にとらわれて移りやすく、あたかも猿のようで、まことにあちこちと散り乱れて落ち着かないもの」と、仏教では、サルの気ままな行動が仏道修行する人にとって、あんまりよろしくないということを説いています。

さてそうは言いながらも、世界遺産に登録されている栃木県の日光東照宮にはあの有名なサル。三匹の猿「さんざる」がいますよね。三匹のサルの姿から「見ざる言わざる聞かざる」の言葉で有名ですが、あれを見ると仏教に関係しそうですよね。

ですがあれもあんまり仏教には関係ないようで、三猿を含めた16匹のサルが描かれているのは日光東照宮の馬小屋であり、古来日本では、猿が馬の病を治したり世話をするといった、猿が馬を守る神とされてきたからです。

また「見ざる言わざる聞かざる」の三猿の教えですが、似たようなたとえ話は世界各国にあるようですし、元々は2500年前の儒教の孔子の言葉

  • 礼節にそむくことに注目してはいけない
  • 礼節にそむくことを聞いてはいけない
  • 礼節にそむくことを言ってはいけない
  • 礼節にそむくことを行なってはいけない

の「論語」が由来ともされます。

本来は中国から伝わった儒教の「見ざる・言わざる・聞かざる・行わざる」なんですが、日本では4匹の猿は「しざる」と、数字の四が死を連想して不吉という迷信から、3匹になったらしいです。

ただし全く仏教と関係なかったかといえばそうではなくて、サルの動物にたとえた人物は、今から1000年ほど前の比叡山中興の祖の元三大師良源だったともされます。

栃木県の日光山は天台宗と関わりのある山でもあったので、日光東照宮が「見ざる・言わざる・聞かざる」を三匹の猿に例えたのも、仏教と少しは関係あるのかもしれません。

ちなみにですが、兵庫県神戸市にある真言宗須磨寺派の本山須磨寺には5匹の猿の像があります。

「みざる、いわざる、きかざる、おこらざる、見てござる」の五猿で

  • ためにならない態度を見ざる
  • ためにならない事を言わざる
  • ためにならない話を聞かざる
  • ままにならない事を怒らざる
  • まんまんちゃんは 善い行も 悪い行も見て五猿

だそうです。

まんまんちゃんとは「南無阿弥陀仏」の仏様のことで、兵庫・京都・大阪の近畿圏あたりに伝わる言葉のことです。

見ざる聞かざる言わざるの三猿が有名ですが、寺によっては所によっては、四匹だったり、「みざる、いわざる、きかざる、おこらざる、見てござる」といった五猿のこともあります。

2021年12月7日の猿のお話。かっけいのラジオはここで終了します。来週もまた聞いてくださいな。ポッドキャストでも配信していますので、iTunesなどのアプリで「レビュー・評価・登録」してくれたら嬉しいです。

さいごに、香川県讃岐の妙好の人、山地願船さんのうたわれた五匹の猿を紹介して終わりにします。

見ざる聞かざる言わざると
思わざると為さざると
五匹の猿に恵まれて
身安 気安の楽しみは
南無阿弥陀仏の塵ほこり
日光東照宮の三猿
日光東照宮の三猿
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天台座主の元三大師良源

比叡山中興の祖

元三大師(がんざんだいし)は天台宗比叡山の中興の祖。

良源(りょうげん)は生前の名前で、919年から985年に生きた平安時代の天台宗のお坊さんです。

第18代の天台座主として、焼失した比叡山の堂塔伽藍の再建整備、学問の興隆など「比叡山中興の祖」とされる。正月三日に亡くなったことから、元三大師との呼び名で親しまれる。

また死後に一条天皇(980~1011)から、慈恵大師(じえだいし)の諡号を賜っている。

たくあん漬けや日本のおみくじの起源は、元三大師とも伝わる。

元三大師の七猿の歌

七猿歌
  • つらつらと うき世の中を思うには まじらざるこそ まさるなりけれ
  • 見聞かでも いはでもかなはざるものを うき世の中に まじるならいは
  • つれもなく いとはざるこそうかりけれ 定めなき世を 夢とみながら
  • 何事も 見ればこそげにむつかしや 見ざるにまさる 事はあらじな
  • きけばこそ 望もおこれはらもたて きかざるぞげに まさるなりけれ
  • こころには なにわのことを思ふとも 人のあしきは いはざるぞよき
  • 見ず聞かず いはざる三つのさるよりも 思わざるこそ まさるなりけれ
七つの猿の歌はなぜ読まれた

滋賀県大津市坂本に「山王総本宮日吉大社」がある。

山王とは日吉の神様の別名で、天台宗・比叡山延暦寺の守護神ともされる。また日吉大社がまつる「神猿(まさる)」は神の使いといわれる猿で、魔除けの象徴とされる。

天台宗の寺の広がりとともに、日吉の神様がまつらるようになり、元三大師の七猿歌は、日吉山王権現の使いである猿と山王七社に因んで、「さる」という言葉からつくられた七種の処世訓。

「見ざる・聞かざる・言わざる」の三猿は、元三大師の七猿歌から出ているとされる。

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