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第5回目のラジオ配信。「お線香は立てるのか?寝かせるのか?」がテーマです。(BGM:音楽素材MusMus)
お参りに行きますと、お線香を立てられる方が非常に多いんです。私は浄土真宗ですから、お線香を立てることはしないんです。
でも世の中一般的に、お線香を立てる宗派がほとんどですし、観光地に行きますと、お寺の本堂の外に大きな香炉があって、それに皆さんお線香をたてるんですね。
ですから皆さん何となしに、「お線香って立てるのが当たり前でしょ?」と思われているようなんです。
もちろん今言ったように、お線香というのは、立てる宗派がほとんどなんです。一方で、浄土真宗という仏教宗派だけは寝かせて横にして使うと言われてます。
実際、私は浄土真宗なんですけども、立てる作法というのはひとつもないです。お線香というのはどの場面でも必ず寝かせて使います。
どうしてお線香は寝かせるでしょうかね?
浄土真宗のお坊さんが昔からよく言うのは、「立てて使ったら、危ない」って言うんです。なんで危ないかはわかりますよね。昔の家では、火事になりやすい場所が三つあると言われてまして、お風呂場の焚き口とご飯を作る台所の炊事場、それと油やおロウソクそしてお線香を使う仏壇なんですね。
私の住んでるところでも昔はお風呂場や台所やお仏壇での火事というのはあったそうです。お風呂場の焚き口で焚いていると、冬に猫が暖かいからと暖を取りに寄って来て、それで毛に火の粉がついて暴れまわって家を焼いたり、台所も昔はおくどさんというかまどがあって、それでご飯とかを炊いてたら、まあそこから火事なったりしたそうです。
で仏壇というのもロウソクの火をしっかり消したつもりでも、あとから線香が倒れたりして、畳だったりござだったりに火が移ったりして、それで火事になってしまうということが昔はよくあったんです。
今はなかなか毎日お仏壇にお参りして、ロウソクをつけたりお線香を供える家はだいぶ減ったでしょうから、お仏壇での火事というのは、昔ほどはもうそんなには言わなくなりましたけども、昔はお仏壇での火事という話はいくらか聞きました。
ですので浄土真宗のお坊さんは、「お線香は寝かして横にして使った方がよろしいですよ」ってよく言うんです。
そんな火事の説明をしますと、だいたいの人が「ああそんなもんですか」と頷いてくれるんですが、「なんで寝かすんですか。たてるんですか」ともっと突っ込まれることがあるんです。
ちょっとお香の話をしましょうか。
私たちが日常使うお線香といいますのは、そもそもはお香をくゆらすこと・お香をお供えすることなんです。
仏教が生まれたインドというのは暑い国で、またお風呂もそんなに入らないので不衛生なんですね。沐浴と言って川とかで水を浴びる風な感じで身を清めるんですけども 、川のないところだったり修行してたら、どうしても体が臭ってしまうんですね。それでそういう臭いを消すためにお香を、香りの良いものを焚いて身を清めてたのがお香の始まりと言われるんです。
それで仏教が中国や韓国や日本に伝わってくるようになったりするなかで、お花やロウソクの光を仏様にお供えするのと同時に、お香というのも仏様にお供えするようなったんです。
でお香と言ったら基本的に香木という香りの良い木を熱して仏様にお供えしてたんですけども、それは高価ですし、なかなか毎回毎回お香を供える準備をするのが面倒でしたので、それで燃香(ねんこう)または抹香(まっこう)と呼ぶ、粉末状にしたお香を燃やすのが代用品として作られたんです。
そしてプラスお線香という、一番最初は竹の棒や木の棒に燃香・抹香を塗って作ったのが、お線香として考え使われるようになったそうです。
ですからお線香とかというのはその仏様にお供えするお香の代用品なんですね。
でなんで浄土真宗はお線香を寝かせるかと言いますと、その仏様に供えるお香の代用品となった燃香というのを、ず~と長いことお供えできるようにということで常香盤というのを作ったんです。常香盤というのは「常にかおる番(器うつわ)」ということで、これが浄土真宗がお線香を寝かせるようになった一つの由来だと言われてます。
常香盤というのは作りは結構単純でして、大きな香炉を用意しましてそこに灰をふるいにかけて平らにならして、で蛇の形のようなカクカクと曲がった型枠を灰の上にセットして、そして型枠の内側がへこむように押さえて押さえて、そこに燃香を流し込んで固めて、最後型枠をのけたら長い蛇のような曲がった曲がった曲がったお香の塊ができるんですね。
でこれを端から付けると、ゆっくりゆっくりお香の熱が伝わっていって、何時間も長いことをお香の香り煙をお供えできるんです。ですから浄土真宗ではお香を長く仏様にお供えするために、その常香盤というものを使ってお香の粉末を寝かして、一連の長~いお香の線を作ってたんです。
ですから一般的にお仏壇が普及するようになった江戸時代以降、お線香をお仏壇にお供えするときは、その常香盤のように折れ線状にお線香を寝かせていって、お線香が端まできたら、またその線香の端っこを継ぎ足して、またその線香の端に新しい線香を継ぎ足してという風な感じで、お線香を寝かせて寝かしてちょっとずつちょっとずつ、お参りする時の状況に応じてお線香を使っていたんです。そんなこんなで浄土真宗ではお線香は寝かして使うというのが基本に、基本といいますか、もう当然のようになってます。
まぁ実際なんでしょうかね。先ほどの火事の話に戻しますと。浄土真宗でお線香を立てる家を見ますと、「まあお線香立てていても、それはそれでよく目立ってよろしいんですけども」、浄土真宗は お線香で長さ・時間をはかるとかはしないんですね。このお線香が尽きるまでの間、読経を繰り返すとか、念仏を唱え続けるとか、座禅・瞑想・修行をすることはしないんですね。
浄土真宗以外では、仏さまが食べるためだとか、修行する時間の長さ知るためという理由で線香を立てるらしいですが、そこは浄土真宗のお坊さんの私はよく知らないです。まあ、ただ他宗ではそういう理由で線香をたてるそうです。
けっこう浄土真宗のご家庭でも線香を立てる人が多いんですね。
浄土真宗の法事は長いのですが、お線香立てますと続けて線香を立てるときに、また灰に差し込まないといけないですよね。でもその灰の中には先のお線香の熱が残っていますし、元あった線香の真ん中に線香を立てようとするので、気が付かないうちに灰の方から下の方から火がついてお線香が傾いたり倒れたりするんですね。
またお線香を束ねてつけて立てますけども、1本や2本ついてないのがあって、周りの火のついた線香だけ下にいった時に、それが火のつかなかった線香に移って倒れて火事になったりすると言われてるんです。
もちろん実際にはお線香の熱ぐらいでは、火事にはなりにくくて畳をちょっと焦がすぐらいなんですけども、それでも紙に落ちたりすると火事になる可能性もありますので、まあ浄土真宗では伝統的にお堂で大きな香炉でお 香を長い時間使うことや、また一般のご家庭でお線香をちょっとずつ継ぎ足して使うようにすすめるためにその伝統として寝かして使うこと、そして火事にならないという安全面も考慮して、今でもずっと寝かし続けてるんです。
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